12年間使い続けて、刃先がすっかりなくなった包丁を初心者がはたして研ぐことができるのか。
人気の砥石「シャプトン」と角度固定器「スーパートゲール」を使って、ツヴィリングの包丁を5日がかりで研いだその全記録。渾身の体験談。
包丁との出会いから現在まで
結婚祝いのお返しにいただいたカタログギフト。その中にあったのがヘンケルスのツインフィンだった。ちょうど料理に興味が出始めた頃だったから、大喜びでその包丁を注文した。
あれから12年。
包丁は研がないと切れなくなるというのは知っていた。だけど簡易シャープナーで研げばいいものだとばかり思っていた。
実際、最初のうちはそれで何とかなっていた。
けれど、年月がたつうちに、研いでも研いでもすぐに切れ味が落ちるようになり、やがて研いでもまったく切れ味が戻らなくなった。
もう寿命かな。10年以上使ったしね。
そう思い、新しい包丁をネット上で物色し始めたのだが、結局行き着くところはヘンケルスのツインフィン。どうやら自分で思っていた以上に、この包丁が気に入っていたらしい。
同じ包丁をもう1回買うってのもなぁ。
そんなことを思ってなかなか次の包丁を決められずにいた時、どこかのサイトで
「簡易シャープナーではいつか切れなくなる」
「砥石で研げば、包丁はずっと使える」
とあるのを見つけた。
砥石?!
砥石はプロの方が使う道具だとばかり思っていた。実家にも砥石なんてものはなかった。だから、砥石で包丁を研ぐなんてことはこの時まで考えたこともなかった。
砥石での包丁研ぎなんて、包丁の手入れの基本だというのに、その考えがまったくもってアタシの頭の中から欠落していたのだ。
げに恐ろしき先入観。
手元の包丁は、シャープナーではもはや復活ができないところまで来ている。新しい包丁を買うか、砥石を買うか、はたまたメーカーの研ぎ直しサービスに出すか。
まあ、普通に考えれば研ぎ直しサービスだ。
だが。
自分の包丁の切れ味を自分でコントールできないって、なんか負けた気しない?!(←何にだ?)
となれば……、砥石だ。
素人が砥石で包丁なんて研げるんだろうか。
そんな不安はあったけど、ダメだったら素直にメーカーの研ぎ直しに出すか、新しい包丁を買うまでだ。
もしも今使っている包丁が、ほどほどの切れ味をキープしていたら、「よけに切れなくなっちゃうかも」と腰が引けてしまったかもしれないが、もはや清々しいほどに切れない包丁。
その切れ味たるや、まるでペーパーナイフ。
(~_~;)
決めた。
自分で研ぐ。なんとかしてみせる。
こうして、アタシと包丁と砥石との戦いが始まった。
包丁研ぎ:準備編
包丁のスペック
まずは今回研ぐことになった包丁の紹介から。
オールステンレスの美しい姿にひと目ぼれして、カタログギフトで手に入れたのがこれ↓↓
定価12960円。 Amazon.co.jpでは販売価格が8000~1万円あたりで推移している包丁だ。
すでに書いたように約12年使用している。簡易シャープナーでシャカシャカやりながら、なんとかここまで来た。
刃先なんてとっくの昔になくなっているだろうから、どれだけ研げばまともなものになるのか想像すらできない。
ネットで包丁の研ぎ方をチェックしてみたが、どれもみな「切れ味が落ちてきた時」ってことで話が進んでいる。アタシの包丁みたいに「ペーパーナイフみたいになった時」の対処法は書かれていない。
だから「切れ味が落ちてきた時」の10倍くらい頑張れば、なんとかなるんじゃないかと勝手に思うことにした。
セラミックの砥石
ステンレスの包丁は硬いので、普通の砥石で研ぐのはかなり大変らしい。おすすめは研磨力にすぐれたセラミックの砥石とのことで「シャプトン 刃の黒幕 中砥 #1000」を購入。
「少し足したら、新しい包丁、買えちゃうよね」
な感じの3000円オーバーの砥石なんで、買うのに少しばかり勇気が必要だったが、思い切ってポチったら「やるしかない」という気持ちがふつふつと湧いてきた。
背水の陣ってやつか。
かなり刃先がすり減った包丁を研ぐので、本当なら1000番の砥石と一緒に荒砥といわれる「シャプトン 荒砥石 #220」あたりも用意しなくちゃいけないみたいなんだけど、とりあえずこれは買わなかった。
理由は2つ。
その1. ものすごく削れるってのが、初心者には怖かった。
変な削り方をしたら、取り返しがつかなくなっちゃうみたいな、そんなイメージ。使ったことないからよくわからないけど。
その2. 値段の問題。
1000番の砥石が3000円オーバーで、こちらの荒砥が約4000円。ふたつ買ったら7000円になってしまう。
「初心者だからこそ道具はいいものを使おうね」派のアタシだけど、この値段はさすがに出せなかった。7000円あったら、普通に包丁買えるでしょ。それも、そこそこ良いヤツ。
もう少し安く買える荒砥もあったが評判が今ひとつだったので、まあ、なくてもいいかな、と。
というわけで「シャプトンの1000番は荒石の代わりにもなるくらいよく研げる」という言葉を唯一の頼みに、1000番1本でまったく切れなくなった包丁に挑むことにした。
角度固定「スーパートゲール」
他の人が包丁を研ぐところを見たことがない。そばに教えてくれる人もいない。頼りになるのはネットの情報だけ。
そんなアタシがノープランで包丁研ぎに挑戦できるわけもなく。
頼りにしたのがこれ。
これがなかったら、包丁を研ごうなんてそもそも思っていなかったかもしれない。
自転車の補助輪のように、いずれはトゲールから卒業できるのが理想だが、今はアタシにとって頼りになる師匠みたいな存在。
いよいよ包丁を研ぐ
シャプトン&トゲール
▼ シャプトンの砥石
付属の容器から砥石本体を取り出して。
ふたをした容器の上に砥石を乗せれば準備完了。
普通の砥石は水に浸してから使うのだが、シャプトンは上から水をかけてあげれば後はそのまま使うことができる。
▼ トゲール
角度固定器のトゲールを包丁にセット。
参考動画&サイト
YouTubeには、包丁の研ぎ方動画がたくさんアップされているので、とりあえず片っ端から視聴。
人によって研ぎ方が微妙に違っているので、一番しっくりと来る人をチョイスするのが成功への近道。でもってアタシは、上の動画が一番わかりやすかった。
貝印の公式サイトもおすすめ。
動画だけだと細かなところがわからなかったりするのだが、貝印のサイトでは動画とは別に研ぐ時のポイントが文章で丁寧に書かれているので、基本的な部分は理解できる。
こんなはずじゃなかった:実践編
とにかく時間がかかる
ほとんど刃のない状態の包丁を素人が研ごうって言うんだから、時間がかかるとは思っていた。思っていたけど、その時間たるや、想像のはるか上だった。
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ……ってひたすら包丁を動かせばいいのかと思っていたけど、まあ、最初からそんな滑らかには動かないよね。
頭の中では理解してても、いざやってみると、緊張で手と足を一緒に出しちゃった時みたいな、ちぐはぐな感じで、シャカシャカなんてリズミカルにはとてもならない。
スーパートゲールのサポートがあるというのに、時々「ガリッ」と嫌な音までさせてしまう。
包丁研ぎは楽しいとか、精神が集中できるとか、それってどこの世界の話?って思うほどに、右手と左手がバラバラで、最初のうちはさっぱり研げてる気がしなかった。
「カエリ」ができない
包丁が研げた合図として「カエリ」というものが刃先に出来る。
髪の毛1本分くらいの引っかかりができるのでわかるってことなんだけど、研げども研げどもこの「カエリ」とやらが一向にあらわれない。
「ひょっとして、アタシが見逃しているだけ?」
と思って、何度も包丁の刃先の側面をさわってみるのだが、何ひとつひっかかるようなものなんかありゃしない。ツルッツル。
間に休みをはさみつつ、約3時間包丁と格闘してみたけれど、ついに「カエリ」と出会うことなく初日の包丁研ぎは終了。
トゲールで包丁に擦り傷
トゲールのパッケージには、包丁の研ぐ位置にあわせてトゲールをスライドさせながら使うようにと書いてある。
その通りにやったら……包丁に擦り傷ができた。
Σ(T□T)
いくら12年ものの包丁とはいえ、これはかなりショックだった。
仕上げ砥石のようなもので研げば、きれいに消えるのかもしれないが、そうなるとツヴィリングのマークも消えちゃうってことだよね。
というか、そもそも仕上げ砥石持ってないし。
あれこれ考えても、一度ついてしまった傷はどうすることもできない。問題はこれからもトゲールを使うかどうするかってことなのだが。
使う……しかない。
使わなければ角度固定ができないし、包丁にはすでに傷がついてしまっているから、いまさらどうこうしても始まらない。
それでも、傷がこれ以上深くならないように、トゲールをスライドさせながら使うのはやめた。包丁の真ん中より少し先端よりにセットして、あとはそのまま使うことにする。
1日も早くトゲールから卒業しよう。
そう思ったのは言うまでもない。
先端部分が研げない
2日目にようやく「カエリ」が出現!
やっと半分まで来た、とばかりに裏側の研ぎに突入。
なんとなく「こんなものかな」ってタイミングで研ぎを終了し、買ってあったトマトを切ってみるが。
……何か違う。
前より切れるようにはなっているのだけれども、包丁の先端のほうに行くにつれ切れが悪くなっているのだ。切った時の違和感がハンパない。
確かに先端部分はカーブしてて、研ぎにくかった。それでも
「このくらい研いだら何とかなるかな」
と適当なところで切り上げたのだが、それで何とかなるほど包丁研ぎは甘くなかった。
表と裏のバランスが悪い
包丁研ぎ3日目。
先端部分を念入りに研ぐ。これなら大丈夫だろうってところまで研いで、再びトマトで試し切り。
うむ、いい感じ。
そのまま夕飯の支度に突入し、ニンジンの皮むき……で再び違和感。
ひぇ~、皮がむけない。力を入れるたびに、包丁の刃がニンジンに深く食い込んでしまう。
それでも何とか皮をむき終えて、そのまま千切りにしようとしたら、今度は包丁がわずかに斜めに傾く。真っ直ぐに切り下ろしているつもりなのに、力がすぅっと斜めに抜けて行くのだ。
どうやら、包丁の表と裏の研ぐバランスが悪すぎたらしい。
初心者は研ぎにムラが出ないように回数を数えながら研ぐといいのは知っていた。だけど3日目の段階で、おそらく5時間以上を包丁研ぎに費やしていたので、どこを何回研いだかなんて、さっぱりわからなくなっていた。
「カエリ」が出ない、と片側ばかりを必死に研いでいたから、反対側の研ぎが足りなかったのだろう。だから、真っ直ぐに切ろうと思っても、刃が斜めに進んで行ってしまう。
砥石が目詰まり
包丁研ぎも4日目に突入。
今度は反対側を重点的に研ぐ……、つもりだったのだが、ここに来て問題発生。
シャプトンの砥石がさっぱりやる気を見せないのだ。
いつもなら砥石で包丁を研いでいると、黒っぽい研ぎ汁が出てくる。この研ぎ汁が研磨剤のような働きをするのでとっても大切なものなのだが、4日目にしてこの研ぎ汁がさっぱり出てこなくなってしまったのだ。
最初っから出ないのだったら、アタシの研ぎ方に問題があるのだが、昨日まではちゃんと出ていた。
それが、4日目になって突然出なくなった。
いくら包丁をシャカシャカと動かしてみても、砥石の上をツルツルとすべっているかのような感覚で、さっぱり研げている気がしない。
それでもその状態でしばらく頑張ったが、1時間半ほど経過した時点で
「これはさすがに違うだろ」
とネットを検索。
そしたらなんと、砥石には目詰まりというものがあるらしい。
「面直し」が必要なのは知っていたが、目詰まりのことなんてまったくもって考えていなかった。どうりで、いくらやっても研げないわけだ。
それでも、アタシの1時間半の頑張りが少しはきいたのだろう。
トマトを切ってみたら、包丁がすぅっと真下に気持ち良くおりて行った。
まだ表裏のバランスが悪いようで多少の違和感はあるのだが、それでも良く切れる。
砥石の裏側で最終調整
包丁研ぎ5日目。
もうね、包丁研ぐのに5日もかかるなんて誰が思ったろうね(笑)
こんなに時間がかかるのも最初だけのはずなんで、とにかく頑張る。
というわけで、表裏のバランスをもう少し整えたくて、シャプトン様にやる気を出してもらうにはどうしたらいいだろう、と考えてみた。
で。
そうだ、砥石の裏側使っちゃえばいいんじゃない?
ネットで調べて見ると、一応「文字が書かれていないほうで研ぐ」ことになっているのだが、裏側でも研げないことはないらしい。
早速、裏側で研ぐ。
シャカシャカシャカシャカ……。
さすがに5日目ともなってくると、ある程度のリズムが生まれて来る。
ただ、調子にのって怪我をしやすいのもこの頃だろうと思い直して、気を引き締めなおす。
そろそろいいかなって頃合いで包丁を洗い、今度はトマトではなくナスを切る。タテ半分に切ったナスに、味が染みこむように包丁で細かい切り込みを入れて行く。
くぅ~、切れる♪♪
すっ、すっ、すっ、と気持ちいいほどに包丁が入っていく。包丁の表裏のバランスも整ったみたいで、切った時の違和感もまったくない。
ショウガの皮むきも問題なく終了。
ここに来て、ようやくアタシの第1回包丁研ぎが無事に終了した。そうして確信する。
素人でも、12年物の包丁でも、根気強く頑張れば研げるんだ!と。
\(*T▽T*)/
まとめ
ものすごく時間がかかって、大変か大変じゃないかで言えばかなり大変だった。
それでも研ぎ終えた時の充実感はかなりのもので、近頃は料理をするのまで楽しくなってきている(←料理があまり好きじゃないのだww)
もちろん、プロの方のように、包丁で産毛がそれるとか、ティッシュペーパーが切れるとか、そんなレベルではない。
切れ味だってそんなに長く続かないかもしれない。
でも。
それでも。
素人でも包丁は研げた。この事実はアタシ的にはかなり大きい。
以前の切れない包丁の感覚でうっかり洗ってしまったら、スポンジがさっくりと切れてしまった。
この程度の切れ味にはなったということでもある。
もしも「自分で研げるかな?」と迷っている人がいるならば、とりあえずやってみるといいと思う。心配だったら100円ショップの包丁を買ってきて、それで練習するって手もある。
砥石やトゲールやらで初期投資がそこそこかかるってのがお悩みポイントかもしれないけど(修正砥石も必要みたいだし)その分、頑張って研げるし、結果として自分の包丁に愛着が湧くしで、それなりの見かえりはある(はず)。
まぁ、いろいろ悩んでみてね。
買い物は悩んでいる時が、実は一番楽しかったりもするものだから。
(^^)
以上、素人が12年ものの包丁を研いだ体験談でした。
ではでは。